私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「父親たちの星条旗」

2006-11-04 10:14:06 | 映画(た行)


2006年度作品。アメリカ映画。
1945年太平洋戦争の激戦、硫黄島の戦いで撮られた一枚の写真。擂鉢山に星条旗を立てる兵士たちの戦後の苦悩を、戦場での映像を交互に交え描く。
硫黄島二部作の第一弾。
監督は「ミリオンダラー・ベイビー」「ミスティック・リバー」のクリント・イーストウッド。
出演は「ラストサマー」のライアン・フィリップ。「チアーズ!」のジェシー・ブラッドフォード ら。


組織の中では人間は一個の歯車でしかない、ってな言葉をよく聞くけれど、それは決して組織にだけ当てはまることではない。戦争という大きな流れの中では、ひとりの人間もちっぽけな歯車のひとつでしかなくなってくる。
本映画を見てそんなことを思った。

本作は硫黄島の戦いをアメリカ側の視点から描いた作品だ。
硫黄島の戦いを語る上で重要になってくる擂鉢山でのアメリカ国旗掲揚の写真。その写真に写った兵士の姿を描いている。

その硫黄島での戦いのシーンは実に迫力がある。とはいえ、上陸のシーンは製作に名を連ねるスピルバーグの「プライベート・ライアン」にそっくりで若干苦笑した。
しかしその臨場感ゆえに、アメリカで英雄としてまつられる兵士たちの苦悩が活きてくる構成となっている。

アメリカに帰ってきた兵士たちに待っていたのは国債獲得のためのツアーにゲストとして参加することだ。いわゆる国威発揚である。戦場では、戦友たちが次々と死んでいき(本当に簡単に死んでいく)、そして狂気じみた殺戮も行なわれている。僕は見ながら少し泣きそうになってしまったほどだ。
しかしそんな戦場の場面と異なり、そこにあるのは茶番じみた浮かれ騒ぎである。
兵士の中にはその環境に適応する者もいるし、最後まで英雄として祭り上げられることに違和感を持つ者もいる。そして適応しながら心に深い傷を抱えたまま生きる者もいる。

そして国家は最終的には、そんな彼らに対して何のケアもしていないのである。
ひとりは飲んだくれになって命を落とすし、ひとりは過去の英雄として忘れ去られていく。
冒頭の言葉に戻るが、所詮、国家というものにとって、彼らは一時的に役に立つ駒でしかない。用が済めば捨ておかれるだけなのだ。

それゆえに本作はあまりに悲しいのである。
この映画を見ると、人間は歯車になりきるにはあまりに弱い存在だということを強く思い知らされる。
主人公は死ぬ直前まで家族に硫黄島のことを話さなかった。その態度が彼の絶望と苦悩と、静かなる慟哭を如実に伝えるものだろう。

ラストの方が淡白だったのが惜しいが、すばらしい作品であることは疑いない。必見である。


ところでラストに次作「硫黄島からの手紙」の予告が流れていたのだが、本作とリンクすると思われるシーンがいくつも見られ、否が応でも期待が高まる。ぜひとも見たいものだ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

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